まだ泳げないタテゴトアザラシの赤ちゃんが氷の穴にドボン!

カナダの東海岸 セントローレンス湾に浮かぶ小さな島
「マドレーヌ島」に2月末になると 北極圏(グリーンランド)に生息する
ハープシール(タテゴトアザラシ)が出産と子育てのために集まってきます
今回 キューバへ行くのが主目的だったのですが 空路がカナダ経由だったため
このチャンスにタテゴトアザラシの赤ちゃんを撮影しようと
その時期に合わせ予定を組みました

初めて出逢ったタテゴトアザラシの赤ちゃん 野生なのに予想以上に人懐っこく可愛いくて 雪の上を一緒にゴロゴロ
しながら撮影しました 時間を忘れるぐらい楽しいひとときでした カメラが珍しいのか興味深々の様子で近ずいて来て
撮影が出来ないぐらいなついてくれた赤ちゃんもいたが 中には警戒する赤ちゃんもいて性格の違いに思わず微笑んで
しまった 成長は早く1日2Kgの割合で体重が増えて 約2週間で1人立ちします

この赤ちゃんは転がしても怒らないし 仰向けにしてもおとなしくポーズをしてくれた
遊んでる内お腹がすいたのか 母親に出合うと
お乳を一心に飲み始めたまではよかったのですが
撮影されているのが気になったのか 母親が氷の
穴から海へ潜ってしまった 赤ちゃんは母親を探して 氷の穴付近をゴロゴロしている内にドボンと
海に落ちてしまった まだ泳げないのだ
最初は自分で前足を穴の渕にかけて懸命に上がろうとしていたが どうしても上がれず次第に力尽きてきた様子にこれは大変と氷の穴に駆け寄ったら母親も傍に心配そうにしていたが どうすることも出来ない これはなんとしても助けなければ…

↑氷の穴から必死に上がろうとするアザラシの赤ちゃん

そこで 赤ちゃんの前足をつかんで引っ張り上げようとしたが もう少しの
ところで手が滑りうまく上げられない 何度か試みているうち赤ちゃんも次第に
疲れてきたのか 溺れそうになってきた あたりには人はいない もちろん
ロープなんて無い 思案している時 自分が首に巻いている長いマフラーに気が
ついて それを赤ちゃんの胴体に巻き付けて引き上げようとしたが ツルリと
すべってなかなか上手く上げられない どうしても助けたい一心で何度か
失敗を繰り返した その思いが通じたのかやっと助け上げることが出来た
赤ちゃんはもちろんずぶ濡れ 体力を使い果たし最初はグッタリしていたが
近くにいた母親がすぐに傍によってきて 心なしか優しい目でこちらをみていた
安心した様子だった 私自身も冷たい海水に何度も手を入れたので 
感覚がなくなっていたが助けた満足感で一杯!

この日に限って予備の手袋を持って
なかったので手が凍えて その母子の写真
を撮影することが出来なかった 
それからもその日は ヘリに戻るまで
シャッターを押せなかった

それにしても あの可愛い赤ちゃんを無事に助け上げることが出来たのは
奇跡だったかもしれない 自分も海に落ちる危険があったから…
夜 夕食の時 1人ワインを飲んでいると何故か涙がでてきた
今回の原因を作ったのは自分かもしれない そう思うと本当に助かって
よかった この体験は生涯忘れないと思う
“タテゴトアザラシの赤ちゃん”貴重な体験と良い想い出をありがとう!


フォトグラファー北川 孝次

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